イタリアワインの基礎知識⑥(6/全22地方):北部-ヴェネトのワイン紀行‐地域別の技術と風味
ヴェネト州は広大なぶどう畑が広がり、その20%がイタリア全体のワイン生産に寄与しています。この土地は、平原から丘陵、山岳地帯まで多彩な地形が広がり、栽培に用いられる異なる手法が特徴です。ヴェネトのワインは、メルローを中心にした品種構成や、地域ごとの独自の風味によって際立っています。ここでは、ヴェネト州のワイン生産の秘密、主要なぶどう品種、そして代表的なワイン産地に焦点を当て、その魅力を解き明かしていきます。

ヴェネト地方
ヴェネト州は、イタリアの北東部に位置し、美しい水上都市ヴェネツィアが州都として知られています。経済的に重要な地域であり、特にファッションや家具の製造業が発展しています。また、ワイン産業でも評価され、ソアーヴェやヴァルポリチェッラなどの地域からは高品質なワインが生産されています。豊かな歴史と文化が根付いており、古代ローマ時代からの歴史的建築物や美術館が点在しています。ヴィチェンツァやパドヴァなどの都市も歴史的な遺産を誇り、ヴェネト州はその多彩な要素からなる魅力的な地域となっています。
ワインの歴史と栽培の起源
ブドウ栽培の根源と進化
ブドウ栽培は約4,000万年前の地域で始まり、化石が発見されたレッシーニ山岳地帯、Bolca di Vestenanova(ボルカ・ディ・ヴェステナノーヴァ)地域のPe-sciara(ぺシャーラ)によってその痕跡が窺えます。ヴェネト州のBreciaやサエローナ県のLazise地域では、古代のブドウ栽培が行われていた歴史が息づいています。エトルリア民族、レーティ民族、ヴェネト民族などが結集し、古代ローマ文化の発展とともにColli Euganeiやヴィチェンツァ県のブドウを用いた優れたワインが誕生しました。
ワイン醸造の隆盛と衰退
古代ローマ時代には、特にColli Euganeiやヴィチェンツァ県のブドウを使用したワインが栄えました。しかし、北部イタリアへの蛮族の侵入により、ワイン醸造技術は衰退。D.O.Cワインのラベルに肖像を飾るサン・ゼノ司教(362年~380年の間ヴェローナの司教として活躍)の逸話が残り、彼の助言によって葡萄の重要性が説かれました。
ヴェネト州のワインの復興と現状
1000年ごろから葡萄の栽培地が拡大し、ヴェネツィア共和国時代にはTorco LivaroやTorco Gualtaloなど多くの葡萄栽培地が現れました。16世紀にはレアンドロ・アルベルティがエウガネイ丘陵地帯の葡萄を賞賛し、ヴェネト州全体での葡萄栽培が進歩しました。しかし、1709年の厳冬によるぶどう栽培の低迷や、18世紀末の病害の発生がヴェネト州を窮地に陥れました。19世紀には他地域からの新品種の導入が行われ、ヴェネト州の現代のブドウ栽培環境が築かれました。
ヴェネト州ワインの秘密: 地理、気候、風土の融合
地理と土壌の多様性
ヴェネト州はアドリア海に広がり、山岳地帯、丘陵地帯、平原地帯が共存し、それぞれ異なる土地の特性をもたらしています。Berici丘陵やColli Euganeiなどの地域がブドウ栽培に影響を与え、アドリア海に面する平坦な海岸地帯はラグーナを含み、農業に水の恵みをもたらしています。
ぶどう生産地として歴史と伝統を誇るヴェネト州は面積が広く (18,364km)、東はアドリア海に面し、北はオーストリア、北東はフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、北西トレンティーノーアルト・アディジェ州、西はロンバルディア州とエミリア・ロマーニャ州に接しています。
北部は山岳地帯になっており、平均2300~2400メートルの高さで、石灰岩を含む山が多く、その中でアジアゴ高原、グラッパ山があり、そしてDolomiti (ドロミーティ) 山脈に属し、3000メートルの高さにも及ぶ Civetta(チヴェッタ)山、Critallo(クリスタッロ) 山やAntelao(アンテラーオ) 山などが挙げられる。
北部の山岳地帯は ヴェネト州の全面積の29.1%を占め、レッシーニ山群、Bassano (バッサーノ)とMontello(モンテッ 口) 丘陵を合わせて丘陵地帯は合計14.5%を占める。平原には石灰岩や火山岩を含むBerici (ベーリチ丘陵) と Colli Euganei (エウガネイ丘陵)が広がります。
平原地帯は全面積の56.4%を占め、ロンバルディア州とヴェネト州の間に流れている、ミンチョ川とポー川からタリャメントオ川が流れる地域まで広がり、湧水が集約している地帯を中心に北部と南部に分かれており。ポー川とタリャメント川の河口を結ぶ弓形の海岸地帯は平坦で低く、ところどころラグーナを含み、 そのラグーナは海と陸地を結んでいます。
船が航行できるぐらいの中型以上の川や運河が多いこともあり、水に恵まれたヴェネト州の主力産業は農業である。ヴェネト州を流れる主な河川として、エミリア・ ロマーニャ州との境界線とほぼ重なっているポー川の下流と、広々した平原を横断しているアディジェ川が挙げられる。
ヴェネト州に源流を発し、同州の海に流れ込むピアーヴェ川も主な河川であり、それに引き換えミンチョ川とタリャメント川の影響力が少ないとされ。ブレンタ川、バッキリョーネ川、リヴェーンザ川、シーレ川、ゼロ川やアーゼ川などというヴェネト州を走る他の河川のほとんどは、アルプス山脈に源流を発し、南東の斜面を伝って平原を横断し、湧水と合流します。
降水量が多い上に、山々の雪が溶けるため、流入量の多い時期は春と秋だと言われ。湖や池が比較的しいものではガルダ湖の東部とミジュリーナ湖などがあるが、どれも湖面が小さめです。
気候の多様性とワイン生産への影響
ヴェネト州の気候は地域によって大きく異なり、海岸地帯から内陸への移動に伴って気温差が顕著になります。海岸地帯は湿気が多く蒸し暑い夏と比較的暖かい冬が特徴で、これがガルダ湖周辺地域の温暖な風土を生み出しています。プレアルプス地帯では日中の気温差が大きく、夏は過ごしやすく、冬も比較的暖かい特性が見られます。これらの気候条件はワインの栽培に影響を与え、例えばガルダ湖周辺ではオリーブや柑橘類の栽培が適しています。
風と気象条件の役割
ヴェネト州はアルプス山脈によって寒い北風から守られつつも、暖かいシロッコや寒冷なポーラ、トラモンターナといった風がワイン生産に影響を与えています。これらの風はワインの味わいやブドウの成熟に影響を及ぼし、特にアドリア海沿いでは秋に多くの降水量があり、これがワインの品質に寄与しています。さらに、南東の平原地帯では濃い霧が発生し、この気象条件がブドウに特有の風味をもたらす一因となっています。
ヴェネト州のワイン生産: 地域特性と栽培技術
畑の多様性と配置
ヴェネト州は広大なぶどう畑を有し、その約20%がイタリア全体のワイン生産に寄与しています。畑は平原地帯(59%)、丘陵地帯(39%)、山岳地帯(2%)に広がり、様々な栽培手法が用いられています。これにはスパッリエラ、シルヴォス、カサルサなどが含まれ、密植の度合いも異なります。たとえば、テンドーネ・ヴェロネーゼ式を施した場合2000から2500株、丘陵地帯でのスパッリェーラ式の場合2500から3000株、ベルッシ式の場合は1000から1500株という最も密度の少ない手法になっているが、株数を増やす傾向が見られます。
ヴェネト州のぶどう品種
ヴェネト州はメルロー種を中心に広範なぶどう品種を栽培し、その中でもメルローが全体の30%を占めています。白ぶどう品種にはガルガネーガ、プロセッコ、香味成分を増やすため、異なる品種を一緒に栽培するという古くから伝った手法も盛んに使われており。例えば、Valpolicella(ヴァルポリチェッラ) とBardolino (パルドリーノ)というワインを造るため、ワインに色味、花や果実のようなまろやかな芳香、酸味としっかりとしたボディという特徴を持つコルヴィーナ種、スパイスの効いた芳香、調和の取れたしっかりとしたボディという特徴を持つロンディネッラ種、酸味の強い、個性的な甘酸っぱい風味で、デリケー トな苦みを感じるという特徴を持つモリナーラ種、という三つの品種が同時に使用されています。
ヴェネト州のワイン産地
ヴェネト州には多くのワイン産地があり、特にガルダ湖周辺、ヴェローナ県の丘陵地帯、ベーリチ丘陵、エウガネイ丘陵、プレガンゼ地区が挙げられます。注目すべきワインにはRecioto di Soave、Valdobbiadene地区のProsecco、ヴァルポリチェッラ地区のワインがあります。これらのワインはD.O.CやD.O.C.Gのラベルを持ち、全体の65%を占め、ヴェネトのワイン愛好者にとっては不朽の存在となっています.
このように、ヴェネト州全体で、地域ごとの異なる土地と気候が、様々なぶどう品種の栽培に寄与しています。それぞれの地域で生み出されるD.O.C.ワインや特有のバリエーションは、ワインの愛好者にとって楽しい探求となることでしょう。
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