イタリアワインの基礎知識③(3/全22地方):北部-ヴァッレダオスタの旅-標高と味わい、この地方と奥深い関係性

イタリア産地を巡るシリーズ第三弾は、イタリア北西部の小さな州ヴァッレダオスタ州を紹介します。その独自のブドウ栽培方法や多様な品種が織りなすワインの物語を紐解いてみましょう。

急な勾配や氷河に覆われた谷、そして標高の高い山々に抱かれたこの地域で育まれるワインには、他にはない独自の特徴が隠されています。旅の準備を整え、ヴァッレ・ダオスタのワインの旅に出発しましょう。

https://youtu.be/2iVpf8-Yidc?si=7IcFABHVLtcRc9Gu

ブドウ栽培の歴史

古代のリグーリア・ゴール人によるブドウ栽培の歴史は、ワイン愛好者にとって興味深いものです。紀元前25世紀にこの土地で暮らしていた彼らは、気候条件に恵まれた谷でブドウの木を栽培し、ローマ人の支配に抵抗しました。この頑強な原住民たちのブドウ栽培の歴史から、紀元前25世紀のローマ執政官が彼らを奴隷として市場に連れて行くまでのドラマが垣間見えます。

伝説によれば、当時のローマの兵士は敗北者のワイン貯蔵庫の最後の一滴まで奪い、この地域のワインが既にその味覚にとっても価値あるものだったことが伺えます。ブドウ栽培の歴史は515年のヴァレーゼの修道院まで遡り、修道院を通じてワイン製造の伝統が続いています。

ワインの進化と評価

1550年のレアンドロ・アルベルティの作品「Descrittione di tutta Ilalia~イタリア図表」により、ワインの本格的な進化が証明されました。ここで、地元のソアーヴェ・モスカテッロが他のワインよりも賞賛されていると記されています。

その後、Chambave、Nus、Donnas、Arvier、Morgexなどが注目を集め、ワインの品質と評価が一段と高まりました。地元のブドウ畑で栽培される多様な品種は、ヴァッレ・ダオスタのワインの個性を豊かにしています。

山岳でのブドウ栽培の困難と保護活動

1800年代半ば以降、ヴァッレ・ダオスタのワイン産業はフィロキセラの到来により一時的な打撃を受けました。特に古くからある数種のブドウの木の失われは、この地域にとって大きな損失でした。しかし、1987年以降、CERVIM(山岳でのブドウ園の捜査、研究そして有効活用するための本部)は、厳しい傾斜や土地の特徴、過疎化といった山岳地帯の困難に立ち向かい、ブドウ栽培の保護と擁護を目指しています。

この研究センターは国際的な協力と科学的な寄与を得て、山岳地帯ワインの保護や研究活動を展開しています。近年では、国際山岳地帯ワインコンクールや科学的研究項目の実現など、多岐にわたる活動を通じて山岳地帯でのブドウ栽培を支援しています。

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地理的特徴と気候の影響

ヴァッレ・ダオスタは小さな山岳の州で、フランス、スイス、ピエモンテ州と隣接し、独特の地形と気候がブドウ栽培に影響を与えています。この地域は氷河に覆われた特徴的な谷で構成され、3つの褶曲した地域が異なる結晶質の岩で形成されています。

最も標高の高い地域にはイタリアで最も標高の高いモンブランがそびえ、これがブドウ栽培に独自の特徴をもたらしています。中央の地域は日当たりの良い開けた土地があり、異なる要素を組み合わせて多様なブドウ品種の栽培が可能です。

こうした、ヴァッレ・ダオスタの地形がもたらす異なる要素は、ブドウに豊かな風味と複雑な特性をもたらすとされています。特に、標高の変化がブドウに独自のキャラクターを与え、ワインに深みをもたらしています。

ドーラ・ヴァルテーア川と湖の影響

ヴァッレ・ダオスタの生態系を形成する重要な要素の一つがドーラ・ヴァルテーア川です。

この川はモンブランの麓から南西に流れ、ポー川と合流します。川の流れによって形成される開けた谷間には、約300平方メートルの氷河と140の小さな湖が存在します。気候は大陸性で、冬は寒冷で長く、夏は短く気温が上昇します。

ドーラ・ヴァルテーア川がもたらす水源は、ブドウの栽培において土壌の水分を補給し、微気候(ミクロクリマ)を形成しています。これがヴァッレ・ダオスタのブドウに独自の風味をもたらしています。

ミクロクリマとブドウ栽培

特にドーラ・ヴァルテーア川の左側では、平均して温帯気候が形成され、ミクロクリマがブドウ栽培に重要な影響を与えています。

地形や風向きにより冷たい風を避け、太陽の光を効果的に受ける環境が築かれています。降水量は少なく、アオスタの盆地では年間600mmという少量ですが、低い谷の部分では増加しています。標高2000m以上では豊富な降雪があり、これがブドウに特有の品質をもたらしています。

ヴァッレ・ダオスタの微気候は、ブドウに理想的な成熟条件を提供し、複雑でバランスの取れたワインを生み出す基盤となっています。

ヴァッレ・ダオスタのブドウ栽培と地域特有の栽培方法

ヴァッレ・ダオスタは、約80kmにわたるドーラ・ヴァルテーアの谷に広がる地域で、独自の地理条件がブドウ栽培に影響を与えています。急な勾配と自然環境により、ブドウ栽培の方法は「テラス式」が主流で、総面積635ヘクタール中、60%が山地、35%が丘に栽培されています。

近年では、木と石の円柱でできた伝統的な「低いつる棚」や岩場の石の壁の間に作られる「グイヨー」、「アルベレッロ」などの新しい栽培方法が導入され、これによりブドウ栽培がより効果的に行われています。

ヴァッレ・ダオスタの急峻な地形がもたらす「テラス式」の栽培は、ブドウに均等な日照と水分を提供し、優れたブドウを生み出す手法として評価されています。

ヴァッレ・ダオスタの多様なブドウ品種とワイン生産

ヴァッレ・ダオスタのブドウ畑では、土着品種や伝統的に栽培されてきた品種に加えて、国際的に知られた品種も栽培されています。

例えば、fumin、premetta、prié blanc、nebbiolo、chardonnayなどが挙げられ、これらの品種には研究が重ねられ、ブドウの有効利用と品質向上に努められています。ヴァッレ・ダオスタのブドウ畑は15%が白ワイン、85%が赤ワイン用に栽培されており、生産量は平均的に低い1ヘクタール6tです。

異なる標高や地域で栽培されるブドウ品種は、ヴァッレ・ダオスタのワインに多様性と深みをもたらしています。

ワイン生産とワイン文化の発展

ヴァッレ・ダオスタのワイン生産は、1985年以降「D.O.C. Valle d’Aosta」が確立され、「少量美味」をテーマに様々な呼称区分が含まれています。ワインは州内で主に消費されつつも、観光客にとってもこの地域で生産されたワインが最適とされています。

地域のエノガストロノミア的な楽しみを見つけるために、ワイン街道や地域特有のエノテカの設立が提案されています。同時に、地域の農業研究機関であるInstitut Agricol Regionalは、ワイン製造に関する実験や研究を行う専門学校として活用されており、ヴァッレ・ダオスタの資産力を最大限に引き出すための活動が進んでいます。

Institut Agricol Regionalの存在は、ワイン製造において科学的なアプローチと実践的な経験を結びつけ、地域のワイン文化を継続的に発展させています。

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おわりに…

ヴァッレ・ダオスタのワインは、単なる飲み物ではなく、この土地の歴史や努力、そして情熱が詰まった芸術作品と言えるでしょう。地元のブドウ栽培者たちが守り続ける伝統的な手法と、新しい技術の融合が生み出すワインは、ヴァッレ・ダオスタの美しい風景と同様、多くの人々を魅了してやみません。

この小さな州が生み出すワインの数々は、ブドウの品種や栽培地域ごとに異なる物語を語りかけています。ヴァッレ・ダオスタのワインの杯を手に、その深い歴史と味わい深い風味に酔いしれる贅沢なひとときを過ごしてみてください。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得

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