銘醸地の旅、南仏プロヴァンスのワイン:9つの異なるAOC地域

プロヴァンス、その名前はラベンダーや向日葵、オリーブの木、そしてもちろんワインと共に鮮やかなイメージを思い浮かべることでしょう。この美しい地域が、長い歴史を持つワインの生産地でもあることを知っていましたか?

プロヴァンスは、その壮大な風景だけでなく、多彩なAOC地域を通じて、驚くべきワインの宝庫としても知られています。この記事では、プロヴァンス地域のワインの魅力を、9つの異なるAOC地域を通じて紹介します。

プロヴァンスの多彩なクリマと風土

プロヴァンスは、ぶどう栽培にとって理想的な気候に恵まれています。この地域は多くの日照と少ない雨、暖かい昼と涼しい夜を享受しています。地中海の影響により気温が穏やかであり、有名な「ミストラル」風によって葡萄畑は乾燥し、害虫が寄り付かず、空は澄んでいます。

地理的に多様な地域には数多くの山脈があり、そこからの優しい斜面と保護された谷が提供されます。土壌も多様です。西部の田園地帯は石灰岩であり、土地は古代には暖かい浅い海に覆われていました。東に進むと、土壌は主に結晶質の片岩(花崗岩)と火山性のものです。

プロヴァンス全域で、ローズマリーやヒノキ、タイム、ラベンダーなどの野生の香草がほとんどどこでも育ちます。これらの植物は「ガリーグ」(石灰岩/粘土地帯での名前)または「マキ」(結晶質の片岩地帯での名前)と呼ばれ、ワインのキャラクターに影響を与えるとされています。

1. 気候の多様性 プロヴァンスは地中海性気候という一般的な気候を持ちながらも、その地域内で多様な気象帯が存在します。西部の海岸地域では海洋の影響によって穏やかな気候が広がり、降水量が比較的多い一方、東部では内陸部に近づくほど乾燥した気候となります。これにより、プロヴァンス全域で異なるぶどう品種を栽培することが可能となっています。

2. 地形の多様性 プロヴァンスの地形は、山々や谷間、丘陵地帯など多岐にわたります。これにより、畑の高低差や傾斜が異なるエリアが存在し、ぶどう栽培において重要な影響を及ぼしています。山岳地帯は風を遮る役割を果たし、畑において風の影響を受ける程度が異なるため、異なる風味や味わいが生まれます。

3. ミストラル風の影響 ミストラルはプロヴァンス地域を特徴づける風で、強風として知られています。この風は、ワイン栽培において非常に重要であり、畑を乾燥させる役割や病害虫の拡散を防ぐ役割を果たしています。また、ミストラル風はぶどうの成熟を促進する一面もあり、特に遅熟性の品種に適しています。

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プロヴァンスの多様なブドウ品種

プロヴァンスにはさまざまな種類のぶどう品種が存在します。一部はおなじみのもので、一部はここだけで見られるものです。白ぶどう品種には、Rolle(別名:ヴェルメンティーノ)、Ugni Blanc(別名:トレビアーノ)、Bourboulenc、Clairette、Marsanne、Roussanne、Grenache Blancなどが含まれます。

また、サヴィニヨン・ブランとセミヨンのようなボルドーバリエタルも一部の地域で認められています。地域特有のぶどう品種であるPascal、Terret Blanc、Spagnol(別名:Mayorquin)、Pignerolも使用されています

1. ロール(別名:ヴェルメンティーノ): プロヴァンスの白ワインにおいて非常に重要な品種です。ロールはフレッシュな酸味と爽やかな風味を持ち、シトラスフルーツや白い花のアロマが特徴です。地中海の気候に適応し、風味豊かな白ワインの基本となる品種です。

2. グルナッシュ・ブラン: この白ぶどう品種は、ワインに繊細な果実味や花の香りをもたらします。しばしば他の品種とのブレンドに用いられ、ワインに複雑さとバランスを与えます。

3. グルナッシュ・ノワール(別名:グルナッシュ・ヌア): 赤ワインに用いられることが多い品種で、プロヴァンスのワインにスパイシーなアロマと力強さをもたらします。成熟すると赤い果実の風味が顕著になり、複雑なフレーバーが楽しめます。

4. シラー: 赤ワインの主力品種の一つで、プロヴァンスのワインに深い色合いと濃厚な果実味をもたらします。シラーはしばしばスパイスやブラックベリーのアロマを持ち、熟成することで複雑なニュアンスが現れます。

5. カリニャン: 赤ワインのブレンドに用いられることが多い品種で、フルーティな風味と軽やかな口当たりが特徴です。カリニャンはバランスの取れたワインを生み出し、他の品種との相性が良いことで知られています。

6. ムールヴェードル: プロヴァンスで重要な品種で、主に赤ワインの製造に使用されます。ムールヴェードルは濃密な果実味と力強いタンニンをもたらし、ワインに深みと構造を与えます。

これらのぶどう品種は、プロヴァンスの気候や風土に適応し、独特の個性をワインに反映しています。各品種の特徴をブレンドすることで、プロヴァンスのワインは豊かな味わいと多彩な風味を楽しむことができます。

9つの異なるAOC地域

プロヴァンスのワイン産地

プロヴァンス地域は、その多様な気候や風土に支えられ、9つの主要なAOC(原産地統制呼称)から成る多彩なワイン産地を有しています。これらのAOCは、地理的特徴や土壌、気候条件などに基づいてワインの生産を制御し、独自の風味を持つワインを生み出しています。

1. Côtes de Provence(プロヴァンスの丘陵地帯)

Côtes de Provenceは、プロヴァンス地域最大のAOCであり、ワイン生産の約75%を占めています。この地域は非常に広大で、サンテ・ヴィクトワール、ラ・ロンド、フレジュ、ピエールフーの4つのサブリージョンが存在します。これにより、地域内の気候や土壌の多様性が反映され、異なる特性を持つワインが生産されます。南部の沿岸葡萄畑と冷涼な内陸部の葡萄畑との間には60日以上もの気温差があり、それによってワインに深みと複雑さがもたらされます。

2. Coteaux d’Aix-en-Provence(プロヴァンスのエクサンプロヴァンス地区)

Coteaux d’Aix-en-Provenceは、プロヴァンス第2の大きなAOCであり、ミストラル風の影響を受ける地域です。この地域は紀元前600年まで遡る歴史を持ち、15世紀にはヨーロッパの王室によって高く評価されていました。今日、ロゼワインが主流であり、グルナッシュ、ムールヴェードル、サンソー、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのブレンドが使用されています。

3. Coteaux Varois de Provence(プロヴァンスのヴァロワ地区)

Coteaux Varois de Provenceは、「プロヴァンスの心臓地帯」とも称される地域で、プロヴァンスの中央部に位置しています。起伏に富んだ石灰岩の山地が広がり、標高の高い葡萄畑は涼しく、ゆっくりと熟成する条件を提供します。これによってワインは酸味や風味、構造の面で優れた特性を持ちます。ロゼワインが主流であり、サンソー、ムールヴェードル、グルナッシュ、シラーなどが使用されます。

4. Les Baux de Provence(プロヴァンスのレ・ボー・ド・プロヴァンス地区)

Les Baux de Provenceは、おそらくプロヴァンスで最も暑い地域の一つです。古代都市アルルの北に位置し、ボーの丘の斜面に広がる葡萄畑は、古代からの歴史と文化を持っています。ミストラル風や険しい地形が特徴で、グルナッシュ、シラー、サンソー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどから造られるワインは、独特の風味を持つことで知られています。

5. Cassis(カシス地区)

Cassisは、地中海沿岸に位置するプロヴァンス最初のAOCです。急峻な白い石灰岩の崖と海が美しい景観を作り出し、18世紀のフィロキセラ流行による壊滅的な被害を克服し、白ワインの産地として再興されました。メインのぶどう品種はマルサンヌで、ワインは柑橘類や桃、蜂蜜、ハーブの香りを持つことが特徴です。

6. Bandol(バンドール地区)

バンドールは、カシスの東に位置し、暑さと砂質の土壌が特徴です。バンドールは、最大95%のムールヴェードルを使用してオーク樽で熟成させることで知られる、濃厚でリッチな赤ワインを生産します。クレレット、グルナッシュ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンから造られるワインも、その風味と複雑性で称賛を受けています。

7. Palette(プロヴァンスのパレット地区)

パレットは、プロヴァンスのAOCの中で最も小さな領域です。25種類以上の珍しいぶどう品種が栽培され、手摘みで収穫されます。ムールヴェードルが主要な赤ワインの品種であり、クレレット、グルナッシュ、シャルドネなども使用されます。白ワインとロゼワインは、8か月以上熟成する必要があり、パレットはプロヴァンスワインの伝統を保護するために重要な役割を果たしています。

8. Bellet(プロヴァンスのベレ地区)

ベレは、プロヴァンスの東端に位置し、ニース市周辺の急峻な丘陵に広がっています。ロール(ヴェルメンティーノ)やシャルドネといった珍しい品種が使用され、クレレットやフォール・ノワールから造られるワインも特徴的です。ベレのロゼワインは、バラの花びらの香りを含む爽やかな風味を持っています。

9. Pierrevert(プロヴァンスのピエールヴェール地区)

Pierrevertは、プロヴァンスのAOCの中で最も新しい地区で、ライン川の影響を受ける場所に位置しています。赤ワインブレンドやホワイトワインに使用されるぶどう品種は、グルナッシュ、シラー、ロール(ヴェルメンティーノ)、ルーサンヌ、マルサンヌなどがあります。特に異なるのは、ロゼワインの製造において「サイニエ」方法が使用され、プロヴァンスの他の地域とは異なる特性を持つワインが生産されることです。

これらのAOCは、プロヴァンス地域がもつ多様性と歴史を反映し、ワイン愛好家にとって素晴らしい選択肢を提供しています。各産地は独自の特性をワインに注ぎ込み、プロヴァンスワインの多彩な風味と魅力を楽しむことができます。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得