ワインの醸造③:果皮の漬け込み(キュヴェゾン)とその影響〜ワインの色・香り・味わいを決定づける醸造の核心〜

本記事では、フランス語で「漬け込み」と呼ばれるプロセスに焦点を当て、ワインの魅力を解き明かします。漬け込みの目的、歴史、ワインの風味への影響、地域ごとの違い、さらには最新の醸造トレンドまで、掘り下げていきます。

キュヴェゾン(漬け込み)とは何か?

キュヴェゾン(cuvaison)とは、フランス語で「漬け込み」とも呼ばれるワイン製造工程です。この工程では、ワインの発酵中に果汁と果皮を一緒に保持することが行われます。

具体的には、ワインの原料であるぶどうを搾汁した際に、果皮を発酵中の果汁と一緒に槽に入れ、一定期間そのまま漬け込むことを指します。

この漬け込み工程は、ワインの 色・香り・タンニンのバランス を決定する要因となることから、ワイン製造においてきわめて重要なステップです。

◇ キュヴェゾンの目的

タンニンの移行(ワインの構造や熟成ポテンシャルに影響)

・色素の抽出(赤ワインの場合、アントシアニンによる色の深み)

・香りの形成(品種特有のアロマが果皮から抽出される)

キュヴェゾンの期間や手法は、ワインのスタイルに大きな影響を与えます。

次章では、その影響を詳しく見ていきましょう。

漬け込みがワインに与える影響

漬け込み工程がワインに与える影響は非常に重要です。漬け込みによって果皮から風味物質やタンニンが抽出され、これらの成分がワインに豊かな味わいと複雑さをもたらします。

  • 風味の豊かさ: 漬け込みによって果皮から香り成分が溶け出し、ワインに芳醇な香りをもたらします。これにより、ワインの香りが複雑で魅力的になります。異なるぶどう品種や産地によって、異なる風味が漬け込みによってワインに付与されます。
  • 短期間の漬け込み → フルーティーでフレッシュなアロマ
  • 長期間の漬け込み → スパイスや土っぽさ、熟成向きの複雑な香り

  • タンニンの存在: タンニンは果皮に豊富に含まれており、漬け込みによってワインにタンニンが移行します。タンニンはワインの口当たりや構造に影響を与え、ワインが長期熟成に適しているかどうかに関わります。適度なタンニンはワインの寿命を延ばし、複雑な風味を提供します。

  • 色の深さ: 漬け込みはワインの色にも影響を与えます。特に赤ワインでは、果皮からの色素が漬け込まれ、深く濃い色調を持つワインが生まれます。これは視覚的な魅力を高め、ワインの品質を示す重要な要素の一つです。
ワインタイプキュヴェゾンの長さ色調の特徴
ブルゴーニュ ピノ・ノワール短め(約7~10日)軽やかで透明感のあるルビー色
ボルドー カベルネ・ソーヴィニヨン長め(約14~30日)深みのあるガーネット~紫色
イタリア バローロ(ネッビオーロ)長め(30~40日)褐色がかったオレンジ色を帯びる

歴史的背景

漬け込みの歴史的背景は、ワイン製造の進化を理解する上で興味深い要素です。十七世紀以前、漬け込みを行うための適切な槽が存在しなかったため、ワイン製造は限られた条件下で行われていました。大量の果皮と果汁をおさめられる発酵槽が登場するのは十七世紀になってからであり、それ以前は醸造工程が制約されていました。

この時代のワインは、発酵期間が短く、軽い味わいでした。十七世紀初頭の醸し工程において、ぶどうが槽いっぱいになると、じっと耳を澄ませてぶどうが「沸きあがる」音を待つなど、ワイン製造は簡素でした。しかし、時が経つにつれて漬け込みにかける時間が伸び、ワインの風味と品質の向上が求められました。漬け込み工程はワイン製造の進化と共に重要性を増し、今日のワイン製造においても欠かせない要素となっています。

このように、キュヴェゾンと漬け込みはワイン製造において不可欠な要素であることが、その歴史的背景を理解することができます。

ワイン製造の進化と現代のワインの品質向上についてもっと見ていきましょう。

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風味の源:果皮の役割

ワインの風味や複雑さの源は、果皮に多く含まれています。果皮にはタンニンや風味物質が豊富に存在し、これらの成分がワインに特有の特徴を与えます。以下では、果皮の役割について詳しく説明します。

果皮には、ワインに重要な香りや風味をもたらす多くの化合物が含まれています。例えば、果皮にはフルーティーな香りや花のアロマ、スパイスのニュアンスがあり、これらがワインの香りプロフィールを形作ります。果皮の特性はぶどうの品種や産地によって異なり、それが異なるワインの風味を生み出す要因となります。

さらに、果皮には抗酸化物質も含まれており、これがワインの長期保存能力に寄与します。これらの物質は酸化を抑制し、ワインが長期間熟成する際に風味を保つ役割を果たします。したがって、果皮が適切に漬け込まれることで、ワインは時間と共に複雑で魅力的な風味を発展させることができます。

タンニンの役割

タンニンはワインにおいて非常に重要な要素であり、口当たりや貯蔵能力に大きな影響を与えます。タンニンは主に果皮から抽出され、ワインにアストリンゲントな特性をもたらします。

  • 口当たりの影響: タンニンはワインの口当たりに感じる渋みを生み出します。この渋みは、ワインが口内で組み立てられる感覚を提供し、ワインの味わいをより豊かにします。特に赤ワインにおいて、適度なタンニンはワインの構造をサポートし、バランスの取れた味わいを実現します。
  • 貯蔵能力: タンニンはワインの長期間の貯蔵に不可欠な要素です。適度なタンニンが存在するワインは、瓶内で熟成し、複雑な風味を発展させる能力が高まります。タンニンは酸素との相互作用を通じて、ワインの風味が変化し、より洗練された味わいが形成されます。
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漬け込み時間と風味のバランス

漬け込みの時間はワインの風味に大きな影響を与えますが、適切なバランスを見つけることが重要です。漬け込み時間が長すぎると、ワインは不味くなる可能性があります。ここからは、漬け込み時間と風味のバランスについて説明します。

長期間の漬け込みは、果皮から多くの風味成分やタンニンを抽出することができますが、過度に漬け込むとワインが過剰にタンニンを持ち、渋すぎる味わいとなる可能性があります。したがって、漬け込み時間を調整し、適切なバランスを見つけることが重要です。

漬け込みの時間はぶどうの品種や産地、ワインのスタイルによって異なります。一般的に、タンニンの豊富な品種や構造のあるワインは長期間の漬け込みに適していますが、軽快でフルーティーなワインは短めの漬け込みが適しています。漬け込み時間を適切に調整することで、ワインが風味とタンニンのバランスがとれた洗練された味わいを持つことができます。

発酵期間と漬け込み

発酵期間と漬け込みはワイン製造において密接に関連しており、最終的なワインの質と特性に影響を与えます。

発酵期間とは、ワインが発酵中にどれだけの時間を過ごすかを指します。発酵はぶどうの果汁からアルコールと二酸化炭素が生成される過程であり、この期間に果皮が果汁と一緒に漬け込まれます。発酵期間が長いほど、果皮からの風味成分やタンニンが多く抽出される傾向があります。

漬け込みは発酵期間中に行われ、果皮が発酵槽に保持される時間を指します。漬け込みの長さは、ワインメーカーが特定の風味プロフィールやタンニンのレベルを実現するために調整する要素です。長い漬け込みは風味を豊かにし、タンニンを多く含むワインを生み出しますが、過度に長い場合、渋すぎたり過剰に濃厚なワインになる可能性があります。

最適な条件を見つけるために、ワインメーカーは発酵期間と漬け込み時間を調整し、ワインのスタイルや品種に合ったバランスを追求します。この調整により、特定のワインが柔らかくフルーティーであるか、逆にタンニンが豊富で濃厚な特性を持つかなど、ワインの個性をコントロールすることができます。

漬け込みの時間とワイン種類

漬け込みの時間は、ワインの種類や産地によって異なることがあります。特に特定の地域での漬け込みの実際と、ワインの種類に応じた漬け込み時間の違いが見られます。

例えば、ブルゴーニュ地域では、ピノ・ノワールなどの赤ワインが製造される際には漬け込みの時間が比較的短い傾向があります。これは、ブルゴーニュの赤ワインが軽快で繊細な風味を持つことを求める伝統に基づいています。一方で、ボルドー地域などでは、カベルネ・ソーヴィニョンを含む赤ワインが製造される際には漬け込み時間が長く、タンニンを多く抽出することが一般的です。これにより、濃厚で長期熟成に適したワインが生み出されます。

白ワインにおいても、漬け込み時間は品種によって異なります。一般的には白ワインは赤ワインよりも漬け込み時間が短い傾向があり、果皮からの風味成分を抽出することは少ないですが、一部の白ワインでは長期の漬け込みが行われることもあります。

漬け込みの手法

漬け込みは伝統的な手法と現代的な機械を使用した手法の両方で行われます。伝統的な手法では、人力で果皮を漬け込む作業が行われます。これには機械を使用しない方法や、果汁を手動でかき混ぜる方法が含まれます。ブルゴーニュなどの一部の地域では、ジャンプをくり返すなど、力強い方法が伝統的に使用されています。

一方、現代的な機械を使用した漬け込みも一般的です。特に大規模なワイナリーでは、ポンプを使用して果汁をかき混ぜる方法や、自動的に果皮を漬け込む装置が導入されています。これらの方法は効率的で、一貫性のある漬け込みを実現するのに役立ちます。

漬け込みの手法はワインメーカーの好みや製造スタイルに応じて選択されます。伝統的な手法は手間がかかりますが、一部のワインメーカーにとっては風味や品質の向上に寄与すると考えられています。現代的な機械を使用した手法は生産性が高く、一定の品質を確保するのに適しています。

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まとめ:漬け込みの影響と最終的なワイン

ここまでの「漬け込み」の影響をまとめていきますと、漬け込みはワインの風味に大きな影響を与えます。果皮に含まれる風味物質が漬け込まれることで、ワインに豊かな香りと味わいがもたらされます。例えば、赤ワインの場合、漬け込みによって赤いベリーやチェリーの香りが強調され、複雑さが増します。白ワインでは、柑橘類や花の香りが際立つことがあります。

また、漬け込みはワインの色にも影響を与えます。果皮からの色素が漬け込まれることで、ワインは濃い赤色や深い黄色を持つことがあります。これはワインの視覚的な魅力にも寄与します。

漬け込みはまた、ワインのタンニン濃度にも関与します。タンニンは果皮に多く含まれており、漬け込み中に抽出されます。漬け込みが長いほど、ワインのタンニンが増加し、ワインの構造や口当たりに影響を与えます。このため、漬け込み時間はワインのタンニンの柔らかさや渋みに大きな影響を持ちます。

さらに、漬け込みはワインの酸度にも影響を及ぼします。漬け込み中に酸味が調整され、ワインのバランスが保たれます。適切な酸度はワインの品質を高め、長期間の貯蔵に適しています。ワインをより深く理解し、テイスティングの際に「このワインのキュヴェゾンはどれくらいだったのか?」と考えることで、さらに楽しみが広がるでしょう。

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最終的なワインの特性

漬け込みの結果、最終的なワインの特性が形成されます。漬け込み時間や条件によって、ワインのスタイルが大きく変化します。

  • 繊細なワイン: 漬け込み時間が短い場合、ワインは繊細で軽やかな風味を持ちます。これは主に白ワインや一部の赤ワインに見られます。漬け込みが短いことで果皮からの抽出が少なく、フレッシュで果物の香りが際立ちます。
  • 濃厚なワイン: 漬け込み時間が長い場合、ワインは濃厚で複雑な風味を持つことがあります。赤ワインの場合、タンニンが豊富で長期熟成に適しています。このようなワインは力強く、味わい深いものとなります。
  • バランスの取れたワイン: 適切な漬け込み条件で製造されたワインは、酸度とタンニンのバランスが良く、長期間の熟成にも耐えられます。これらのワインは多くの食事と相性が良く、多くのワイン愛好家に支持されています。

フードペアリングから考える

ワインを選ぶ際に漬け込みに関する知識を活かすことで、より満足度の高いワイン体験を楽しむことができます。漬け込み時間にも注目してみると面白いです。

  • 好みに合った漬け込み時間を探す: 自分の好みに合った漬け込み時間を見つけるために、異なるワインを試してみましょう。短い漬け込みのワインと長い漬け込みのワインを比較して、自分の好みを見つける手助けになります。短いのか長いのか、比較しながら考えてみてください。
  • ワインのラベルをチェック: ワインボトルのラベルには漬け込みに関する情報が含まれていることがあります。漬け込み期間やワインメーカーのスタイルに関する情報から確認することができます。
  • 食事との相性を考える: 食事との相性を重視する場合、漬け込みの違いが料理とのマッチングに与える影響を考えてワインを選びましょう。軽い漬け込みのワインは軽食と相性が良く、濃厚な漬け込みのワインは肉料理と相性が良いことが多いです。この辺りは、好みの問題もありますので傾向としてとらえて頂けますと幸いです。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得

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