イタリアワインの基礎知識⑲ (19/全22地方):バジリカータ-南部のワイン:火山と風土が紡ぐ醇酒の物語

Basilicata(バジリカータ)州、その土地の風土が醸し出すワインは、火山の影響を受け、独自の地理的条件が形作るブドウ栽培とワイン生産は、豊かな多様性と古来の伝統が融合した特別なものです。本記事では、Basilicataの気候、地理、そしてブドウ畑での栽培技術から、この土地が生み出す数々の優れたワインに迫ります。

バジリカータ地方

バジリカータ州はイタリア南部に位置する魅力的な地域で、アペニン山脈に広がり、カンパーニア州、プーリア州、カラーブリア州と隣接しています。この地域は、ユネスコに認定された世界遺産であるマテーラの古代洞窟住居や、ターラント湾、ポリカストロ湾など美しい風景が広がり、観光地としても知られています。歴史的な面では、Melfiのノルマン人の城や、カルロ・ルビーノ、フェデリコ・フェリーニなどの著名な偉人たちがゆかりの地となっています。

しかし、この州が際立つのはワイン生産地としての側面です。特に「Aglianico del Vulture」などの品種は、地域独特の気候と土壌から生まれ、その特有の酸味やフルーツフレーバーが引き立っています。また、DOCテッレ・デル・アルタ・ヴァル・ダグリでは、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンの2つの国際的なブドウの木から生まれるワインが、地元の生産者やワイナリーのプロフェッショナリズムの向上とともに高まっています。これらの要素が結びつき、バジリカータ州はイタリアの宝石として多くの人々を惹きつけています。

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La vite e la sua storia ブドウ栽培とその歴史

バジリカータ州のワインの起源は、古代ギリシャの植民地の住民によるブドウ栽培の定住にさかのぼります。当時、ブドウは経済活動の重要な要素であり、古代の硬貨にはブドウの房が描かれていました。これらのブドウはLabrusche種やAminee種の系統に属しており、品質やその他の詳細には未だ不明な点が残っています。

ローマ時代には、詩人OrazioやPlinio il Vecchioが、ポテンツァ市近郊のVenosa生まれやTempsaのワインについて言及しています。新しい事実を知るためには、Prospero Rendellaの1629年の記述が参考になります。彼によれば、Due Sicilie産のワインは、MelfiのワインであるMelfiacoとは異なるが、香り高く、黄金色で最高の甘みを持ちクレタ産やキプロス産ワインにも全く引けを取らないと書かれていました。

19世紀までのバジリカータのワインは未知の領域でしたが、Ottavio Ottaviによれば、特にMalfiが最も優れた地域であるとされていました。ワインは当時はブレンド用として生産され、特にVultureが高品質のワインを生産する最適な地であると認識されていました。

1893年、ブドウ 品種やBasilicata(バジリカータ)産ワインの論文に身を捧げたワイン醸造学の専門家 Giovanni Bianchi(ジョヴァンニ・ビアンキ)氏はVulture (ヴルトゥーレ)について、この土地は良質のワイン生産に最も適した地であると評価しており、なかでも秀でているワイン2種として、Aglianico del Vulture (アッリアーニコ・デル・ヴルトゥレ)とAleatico del Rionero(アレアティコ・デル・リオネーロ)であるが、一つ目のAglianico (アリアーニコ) こそ真の主役、バジリカータワイン醸造学のシンボルと言えるであろうと述べています。

20世紀初頭には、ブドウの品種が多様化し、イタリア統一とともに他の州からさまざまな品種(イタリア統一の到来とともにビエモンテ州からはドル チェット種、カンパーニア州からはAsprinio (アスプリーニオ) 種とFiano (フィアーノ)種、プーリア 州からはBonbino bianco (ボンビーノ・ビアンコ) 種、Bianco d’Alessano (ビアンコ・ダ・アレッ サーノ)、Malvasia (マルヴァジーア) 種、Verdeca (ヴェルデーカ) 種さらにMoscato (モスカート) 種、カラブリア州からはGaglioppo(ガリオッポ) 種、Malvasia nera (マルヴァジーア・ネーラ)種と Montonico(モントニコ)等)がもたらされました。

バジリカータはブドウネアブラムシの影響を受けましたが、その後の再生にもかかわらず、古典的なバジリカータ品種栽培の土台はほぼそのまま残りました。これらの歴史的な要素が組み合わさり、バジリカータのワインは独自で豊かな特性を持つことが理解されます。科学的な視点からは、ワインの品質向上とブドウの系統についての研究が今後も重要となります。

Ambiente pedoclimatico 気候風土

1. 地理的特徴と土壌の影響

Basilicata(バジリカータ)州は、山岳地帯、丘陵地帯、平地帯の構成比率がそれぞれ46.8%、45.2%、8%となっており、北はカンパーニア州とプーリア州、南はカラーブリア州に接しています。

この州イオニア海とティレニア海に面しており、西側地区には砂岩と石灰岩でできた山々が広がり、植物の成長は乏しい。主要山地帯は Pollino (ポッリーノ) 山 ( 2.248m) と Sirino (シリーノ)山から成っていおり、中央東部山岳地帯の仕組みは、もっぱら粘土、泥灰土、砂岩から構成されイオニア海岸の短い平地帯に向け徐々に傾斜しています。

北側にはVulture ( ヴルトゥレ) 山 (1.326m) から秀でた目立つ火山群があり、山地部を作り上げている地層の大部分は石灰石とそれに重なる砂岩、礫岩、粘土が石灰と共に層を成している。Murge (ムルジェ)の山脈の麓へ続く中部、低部の丘陵地帯は、粘土質と細かい砂の広 大な土地からなり、砂礫と砂の重なりの中には不規則な海洋性堆積物も見られます。

それに対して谷あいの深部では沖積土と海洋性堆積物の蓄積が勝っており、これが深みのある豊かな生産力を持つ肥沃な土地であることを定義しています。

Vulture (ヴルトゥーレ)の山岳地帯は、Malfi (マルフィ)の地の大部分を覆う溶岩流出と噴火による岩から成る堆積物で構成されており、ワインブドウとオリーブの栽培に非常に良い環境を提供しています。

2. 河川と水域

バジリカータ州の最長の河川はBradano川とBasento川で、これらはイオニア海に注ぎ、広い川幅と激流状態でTaranto湾に流れ込んでいます。これに対して北側地域ではAdriatic海に注ぎ、西側地域ではPlatano川やNoce川がティレニア海に流れ込んでいます。これらの水域は、土地の構成や気候に影響を与え、バジリカータのワイン生産において水資源の重要性が浮き彫りになります。

3. 気候とブドウ栽培

バジリカータ州の気候は内陸部と高地では大陸性であり、冬季は寒く、夏季は温暖です。山岳地帯では冬季には降雪もあります。一方、海岸地域では地中海性気候が支配し、冬季は温暖で夏季は暑いですが、降水量は不安定で秋季に増加します。

内陸部と高地の大陸性気候は、寒冷な冬季においてブドウの酸味を促進し、その結果、ワインにクリスプで爽やかな酸味が感じられます。寒冷な気温がブドウの成熟を遅らせ、糖度の向上を抑制するため、内陸部や高地で生産されるワインは一般的にはっきりとした酸味と控えめな糖度が特徴となります。この条件下で育ったぶどうから生まれるワインは、瑞々しさやフレッシュな果実味が引き立つことが期待されます。

一方で、海岸地域の地中海性気候は温暖な冬季と暑い夏季をもたらし、降水量の不安定さが秋季に顕著に現れます。これにより、ブドウは比較的早い時期に成熟し、ワインには豊かで濃厚な果実味が加わります。糖度が高まり、酸味はやや緩和される傾向があり、結果として海岸地域で生まれるワインはフルーティで甘味のあるキャラクターを備えています。

このようにバジリカータ州の気候差がワインの酸味、熟度、糖度に影響を与え、異なる風味のワインが生み出されるのです。

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Zone vitivinicole ブドウ栽培とワイン生産地域

1. ブドウ栽培と生産地域の地理的特徴

Basilicata(バジリカータ)州のブドウ畑は10,850ヘクタールに限られ、火山の影響を受けた地質が特徴です。この地域でのブドウ生産は、2000年において470,000ヘクトリットルであり、主に黒ブドウ品種から醸造されています。火山質と粘土質の土壌がブドウの栽培に適しており、特にAglianico(アリアーニコ)種が高地から低地まで育ちやすい環境です。

2. 栽培方式とブドウ品種の多様性

ブドウの栽培方式は多様で、かつてはAlberello Speronato(アルベレッロ・スペロナート)式が一般的でしたが、現在は短式Alberello(アルベレッロ)式やGuyot(グイヨー)種との組み合わせが増えています。特に、火山質と粘土質の土壌に適したAglianico種が広く栽培されています。他にもMontepulciano di Basilicata、Moscato del Vulture、Malvasia della Lucania、Asprino Lucanoなどの品種も栽培され、地元ならではのワインが生み出されています。

3. ワイン生産の課題と展望

バジリカータ州のブドウ生産は豊かな土地と伝統的な技術に裏打ちされていますが、生産量はイタリア国内で最も低い部類に入り、1ヘクタールあたりの収穫量はしばしば5トン未満となります。D.O.Cワインとして知られるAglianico del VultureやTerre dell’Alta Val d’Agriがありつつも、州全体でのI.G.Tワインの生産も増加しています。これらの努力にもかかわらず、バジリカータのワイン生産はまだ成熟途中であり、将来的な展望に期待が寄せられています。

試してみるべき産地

Aglianico del Vulture

生産地の特徴

「Aglianico del Vulture」は、バジリカータ州のヴルトゥーレ丘陵地帯で生産されるワインで、その特異な酸味が際立っています。この地域は、内陸部と高地に位置し、冷涼な冬季が醸成するブドウは、バランスのとれた酸味を備えています。特に標高550-650mに広がる「Cru/クリュ」地域では、最も洗練されたワインが生み出されています。

品種の特徴と味わい

主に栽培される「Aglianico」品種は、火山質で粘土質な土壌を好み、その成熟期は遅く、果皮が分厚く色鮮やかなすみれ色をしています。この品種が縦に栽培されることで、密度の高い植栽が実現されています。ワインにはその品種特有の独特な酸味が感じられ、ブラックチェリーやスパイシーなニュアンスが広がります。

Terre dell’Alta Val d’Agri

生産地の特徴

「Terre dell’Alta Val d’Agri」は、グルメント、モリテルノ、ヴィッジャーノの各自治体に広がる特定の土地で生まれるワインです。この地域はDOCテッレ・デル・アルタ・ヴァル・ダグリに指定され、その生産面積は限られています。ここでは、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンといった2つの国際的なブドウの木が栽培され、夏の激しい温度変化がワインに独自の特徴をもたらしています。

使用される品種

この地域で栽培されるブドウの中でも特に注目すべきなのは、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンです。これらの品種は、地域特有の気候条件によって完全に熟成し、ワインに深みと複雑さをもたらしています。また、マルヴァジア・ビアンカ・ディ・バジリカータも使用され、ワインに独自の個性を与えています。

味わいの個性

「Terre dell’Alta Val d’Agri」で生産されるワインは、3つの異なるタイプがあります。「赤」は最低1年間の熟成が可能であり、2年熟成の「ロッソ・リゼルヴァ」やマルヴァジア・ビアンカ・ディ・バジリカータもブレンドされた「ロザート」などがあります。これらのワインは、地域の風土や品種の特徴を最大限に引き出すために、熟練したワイン生産者によって造られています。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得