イタリアワインの基礎知識 ⑰(17/全22地方):プーリア-南部イタリアのワイン宝庫、この地区の魅力を考える

プーリア州、イタリアの南東部に位置するこの土地は、その気候風土と古くから続くワインへの情熱によって、「イタリアのワイン貯蔵庫」と呼ばれる光栄な肩書きを手に入れています。紀元前から続くブドウ栽培の歴史や、フィロキセラの蔓延を克服し復元された伝統的な品種たちが、この地域の高品質で風味豊かなワインを生み出す原動力となっています。

本稿では、プーリア州の気候や風土がワイン生産に与える影響から、主要なブドウ品種の特徴、そして25のDOCワインに焦点を当て、その独自性と深みを解き明かしていきます。プーリアのワイン文化の奥深さに触れながら、ここでしか味わえない風味の秘密に迫りましょう。

プーリア地方

プーリア地方は、イタリアの東南端に広がり、美しいアドリア海とイオニオ海に面しています。この地域は「イタリアのワイン貯蔵庫」と呼ばれ、独自の地中海性気候が栽培に適したブドウ品種を育みます。特に、ネグロ・アマーロやプリミティーヴォなどの重要品種が、風味豊かで複雑なワインの生産に貢献しています。

歴史的な建造物も魅力の一翼を担い、アルベロベッロトゥルッリカルテル・デル・モンテやローマ時代の遺跡などが時空を越えた美を演出します。この土地には、古代の伝説や歴史が息づき、訪れる者を魅了します。

プーリアの最大の魅力は、自然と歴史が調和した風景です。美しいビーチが広がり、歴史的な遺産が点在し、ワイン畑が広がるこの地域は、美食、歴史、そしてワイン愛好者にとって理想的な目的地となっています。多様性に富み、独自の魅力を備えたプーリアは、イタリアを代表する観光スポットの一つといえるでしょう。

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La vite e la sua storia ブドウ栽培とその歴史

ワインの歴史を辿ると、プーリア州は紀元前2000年にまでさかのぼり、フェニキア文化との交流によってブドウ栽培が盛んに行われていました。ギリシャの支配下でも土地の特徴を生かしたワインが生産され、古代ローマの時代にはクィントゥス・ホラティウス・フラックスがワインを絶賛し、特にCanosa、Brindisi、Locorotondo、Martina Francaで造られるものが評価されていました。また、ローマ帝国の衰退期にもプーリア州のワイン産業は繁栄し、フリードリヒ2世の在位期間では品種改良や新品種の導入が行われました。

中世期にはワイン産業がさらに成長し、プーリア州のワインはアドリア海周辺やトスカーナ州、ナポリ県にも広く出回りました。しかし、教皇の時代にはプーリア産ワインの供給が少なく、南部からの輸入が主流でした。

アンドレア・パッチ氏やProspero Rendella氏などが異なる地区のワインについて書物に、この土地の特に岩石が多い丘や海から吹く風によって肥沃にされる土地がワイン生産に適していると描写されています。

これらの要素が土地を肥沃にするメカニズムは、岩石が多い丘、これらの丘は主に石灰岩や火成岩で構成されており、その鉱物成分が土壌に豊かなミネラルを供給します。これはブドウの根が深く成長し、土壌から栄養を吸収するのに理想的です。岩石が豊富な土地では通気性も向上し、土壌の保水力も増し、これがワインの品質向上に寄与します。また、畑の斜面にあるため、水はけも良好で、ブドウに最適な条件を提供します。

また、海から吹く風ですが、これらの風は塩分を含み、その結果土地に微量の塩分を供給しますまた、海風が穏やかに吹くことで、ブドウの樹勢が安定し、風通しも良好になります。これが果実が均等に成熟し、病気やカビの発生を抑制する効果もあるのです。

プーリア州のワイン産業は歴史を通じて成長を続けましたが、1800年前後にはフィロキセラの病害が多発し、急激なワイン生産の増大が見られました。その後、フランスやイタリア北部の商人がプーリア州のワインを購入し、生産面積が急激に増加しました。特にBarletta、Corato、Bitonto、Brindisi、Gallipoli周辺で造られるワインが注目され、デザートワインも好評を博しました。

しかし、1919年に多発したフィロキセラの病害により、プーリア州のワイン産業は深刻な危機に直面し、生産量は急激に減少しました。住民の努力により数十年かかりましたが、やっと回復の兆しが見えてきたのです。これらの歴史的な要素が組み合わさり、プーリア州のワインは長い歴史と努力の結晶と言えるでしょう。

Ambiente pedoclimatico 気候風土

プーリア州の気候風土は、アドリア海とイオニオ海に面し、多様な地形が特徴です。ガルガノ岬は石灰岩や火成岩で構成され、海の侵食が見られる独特の地形を有しています。タヴォリエーレ高原は南方の広い沖積平野で、海岸には広大な砂浜が広がり、土壌は粘土が豊富です。ムルジェ高原は石灰岩の塊で構成され、アドリア海に近づくにつれ低くなります。一方、サレント半島は赤みを帯びた黄土色で、海岸や地下では侵食現象が見られます。

プーリア州内には特定の河川がないものの、Fortore川とOfanto川がアペニン山脈から発生し、アドリア海に流れ込んでいます。この地域の土壌の浸透度の高さや降水不足は、これらの川の特徴を形成しています。興味深いことに、降水が多い時に地盤沈下に水が溜まる現象があり、アドリア海に面する地域では「Lame」、イオニオ海に面する地域では「Gravine」と呼ばれています。さらに、Varano湖やLesina湖などの水域が存在し、地下水が供給される池も見受けられます。

気候は地中海性で、穏やかな晴天が続く特徴があります。冬季は降水が集中し、相対的に暖かい一方で、夏季は暑くからっとした気候が支配的です。特にTavoliereの辺りでは蒸し暑さが感じられ、一年や日中の気温差は海岸から奥地、または北上するにつれて増加します。つまり、穏やかな晴天が続く一方で、冬季は降水が集中し夏季は暑く乾燥しています。これがブドウの熟成を促進し、暖かい風がブドウの樹勢に安定感をもたらします。Tavoliereの蒸し暑い気候がブドウの成熟に寄与し、一方で海岸から奥地や北上するにつれて気温差が増すことが、ブドウに複雑な風味を与えます。

これらの気象条件が組み合わさり、プーリア州のブドウは独自の風味や香りを生み出します。海風が土地を爽やかに保ち、土壌の多様性が異なるブドウ品種に適していることが、ワインの多様性を生む重要な要素です。これがプーリア州のワインが他とは異なる風味と深みを持つ理由であり、気候風土がワインの質に直結しているのです。

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Zone vitivinicole ブドウ栽培とワイン生産地域

1. プーリア州のブドウ栽培とワイン生産地域

プーリア州はフィロキセラの蔓延を乗り越え、伝統的なブドウ品種の復元が行われ、アルコール度が高く濃い色調を持つワインが輸出されています。かつては北部の市場向けに主に生産されていましたが、品質低下が懸念されました。しかしながら、最新の技術と新品種の導入により、現在ではプーリア州は「イタリアのワイン貯蔵庫」と呼ばれ、高品質なテーブルワインの製造が重視されています。ブドウ品種の70%は赤ブドウで、ブドウ畑は全面積の92%を占めています。

2. プーリア州の主要なブドウ品種と栽培技法

プーリア州のブドウ畑では、82%が黒ぶどう品種であり、その中でネグロ・アマーロ種が最も一般的です。他にもプリミティーヴォ種なども栽培されています。畑の栽培技法には、テンドーネ式やグイヨー式が特徴的であり、地域ごとに異なる耕作技法が用いられています。バーリ県、イトリア渓谷、レッチェ県など、地域ごとに異なる特徴を持つ品種が栽培されており、これがプーリア州のワインの多様性と深みを生み出しています。

3. プーリア州のワイン環境と生産ラベル

プーリア州では25のD.O.C.ワインが生産され、地域ごとに異なるワインが醸造されています。特にダウニア地区、ガルガノ高原、サレント半島などがワイン生産の中心地となっています。気候条件と土壌の異なる地域が、ワインに異なる特性をもたらしており、サレント半島では主にネグロ・アマーロ種が栽培され、そのワインはイタリア一と評されるほどの独自の味わいを持っています。これらの要素が結びついて、プーリア州のブドウ栽培とワイン生産が独自かつ豊かなものとなっています。特筆するべき、生産地方についても紹介しておきます。

Castel del Monte DOC

Castel del Monte DOCはアリアニコとネグロアマーロの絶妙なブレンドで知られています。アリオニコがフルーティーで爽やかな香りをもたらし、ネグロアマーロが力強くスパイシーな風味を提供します。そのため、ワインはバランスが取れ、フルボディでありながらも滑らかな口当たりが特徴です。

Primitivo di Manduria DOC

Primitivo di Manduria DOCは主にプリミティーヴォ品種を使用しています。このワインは濃密でありながらも豊かな果実味が広がり、特有の甘さとスパイシーなニュアンスが感じられます。特に熟成を経たヴィンテージはタンニンがまろやかになり、複雑な風味が楽しめます。

Salice Salentino DOC

Salice Salentino DOCの主要な品種はネグロアマーロとマルヴァジーア・ネーラです。このブレンドにより、ワインは濃厚でありながらも繊細で滑らかな仕上がりとなります。スパイシーで芳醇な香りと深い色合いが特徴的です。

Copertino DOC

Copertino DOCはモンテプルチャーノとネグロアマーロを主に使用した赤ワインです。熟成によってワインは複雑な香りと味わいを展開し、チェリーやスパイスのニュアンスが感じられます。タンニンはしっかりとしたが、丸みを帯びています。

Primitivo di Gioia del Colle DOC

Primitivo di Gioia del Colle DOCは、プリミティーヴォ品種により造られたワインで、ジョイア・デル・コッレ地域の土壌が影響しています。このワインは独特のブラックベリーやプラムの風味を持ち、スパイシーな要素が調和しています。

Locorotondo DOC

Locorotondo DOCは主にボンバルデスカ・ビアンカ、グレコ、マリオンの白ブドウ品種を使用したワインです。軽やかでフルーティーな性格があり、リンゴやシトラスの風味が広がります。ミネラル感も感じられ、爽やかで飲みやすいホワイトワインです。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得