イタリアワインの基礎知識 ⑮(15/全22地方):中部-アブルッツォ-山々と海に囲まれたワインの楽園
アプルッツォ地方、それはイタリアの美と歴史が交錯する地。この州は言葉に表せないほどの豊かな自然景観、美食、そして印象的な歴史を抱え、旅行者や食通たちにとっての楽園です。山と海に囲まれたこのエリアは、その独自の風土が育むブドウ畑でも知られています。ここでは、アプリッツォ地方をイタリア国内で際立つ存在とし、その美食、歴史、そしてブドウ畑で栽培される貴重な品種に焦点を当ててみましょう。

アプルッツォ地方
アプルッツォ州は、イタリアの中央部に位置し、「山と海の州」として知られています。この表現は、美しいアペニン山脈とティレニア海に挟まれた地域にあることを指し、その多様な地形や風景を象徴しています。この地域の美しい自然環境は国内外から多くの観光客を引き寄せており、風土や歴史的な舞台に触れることができます。
アプルッツォの料理はシンプルでありながら濃厚な風味が特徴で、「アルブラツィアーナ」はその代表例です。この料理はラム肉とスパイスで味付けされ、地元産のオリーブオイルや豊富な海の幸、新鮮な野菜も料理に深いコクを加え、食卓に豊かな味わいが広がります。
歴史的な舞台としても知られるアプリッツォは、ローマ時代の詩人「オヴィディウス」の出身地でもあります。彼の詩は愛や神話に関するもので知られ、この地方の風光明媚な風景や文化が彼の作品にも影響を与えたと考えられています。
ワイン生産でも際立つこの地方では、特にモンテプルチャーノ種やトレッビアーノ種が重要なブドウ品種として栽培されています。これらの品種はアプルッツォの地域特有の気候や土壌に適応し、独自の風味をもたらしています。
La vite e la sua storia ブドウ栽培とその歴史
起源と歴史
ブドウ栽培とワイン造りの歴史は、アブルッツォ州において古代の鉄器時代まで遡ります。エトルリア人が初めて合理的な栽培方法をもたらし、アウグストゥス皇帝時代には既にブドウ栽培とワイン醸造が確立していました。ローマでは、スペイン人マルクス・ウァレリウス・マルティアリスの記述からアブルッツォのワインがローマに運ばれていたことが知られています。
アウグストゥス皇帝時代におけるワインの確立や、マルティアリスの記述は、アブルッツォのワインが古代から重要視されていたことを示しています。しかしながら、ドミティアヌス帝時代にはワイン生産に危機が訪れ、畑の減反と蛮族の侵入により大きな打撃を受けました。この時期の危機もまた、ワイン生産の歴史において重要な出来事でした。
修道院とブドウ栽培の復興
中世に突入すると、修道院生活が興隆し、これがブドウ栽培の復興につながりました。 ルネッサンス時代には、アブルッツォでのブドウ栽培がさらに発展し、16世紀には修道院長たちがワインとブドウに関する著述を行いました。 修道院の僧侶たちが行った著述は、当時のブドウ栽培における知識や技術の向上に寄与しました。
特に、1703年には一名の旅行者がアブルッツォのブドウ畑での大量生産に驚き、これがアブルッツォのワインが再び注目を浴びるきっかけとなりました。 ペンネとヴァストの修道院長ドメニコ会士セラフィーノ・ラッツィが、アブルッツォのワインとブドウについて記述しています。
ルネッサンス時代の、アブルッツォにおけるブドウ栽培の大きな発展の信頼に値する証拠は「アン ドレア・パッチが、アクイラの人々のワイン貯蔵庫に3900以上貯蔵可能な数量の巨大樽を持つほ どの大量生産によって驚かされている」と断言している、ワイン生産の描写の記述から得られる。
それより後の時代1703年には、ナポリ人のMichele Torcia (ミケーレ・トルチャ)がペリーニャ を旅行し、アブルッツォのブドウ畑がラクリマ種、ツィビッポ種、モスカテッロ種、モスカッテッローネ 種、モンテプルチャーノ種、他どのような構成になっているか、そして生産されるワインが最高だと記している。
19世紀から現代へ
19世紀末、アブルッツォのブドウ学の遺産は豊かで、さまざまな品種や特にモンテプルチャーノ種の改良が記録されていました。 この時期、アブルッツォはブドウの多様性と品質向上に注力し、その成果が記録に残っています。
しかし、20世紀初頭にはワイン生産に大きな脅威が迫りました。 フィロキセラの襲来により多くの品種が減少し、ブドウ畑は壊滅的な打撃を受けました。 この厳しい状況の中で、トレッビアーノ種とモンテプルチャーノ種が生き残り、優位な地位を確立しました。 低品質ながらも大量生産が求められる状況が形成され、アブルッツォのワイン産業は新たな局面に進むきっかけとなりました。
これらの出来事はアブルッツォのワインの進化において重要な節目であり、困難な状況にもかかわらず、地域のワイン生産が持続し、発展していく様子を物語っています。
土壌、気候環境の影響
土地の多様性とワインの風味
アブルッツォの土地はその多様な地勢によって特徴づけられ、これが地域のワインに独自の風味と深みをもたらしています。 地域は中央アッペンニン山脈からアドリア海岸線まで広がり、その範囲内で西部と東部で異なる地形が見られます。
西部は浸食によって形成された石灰岩の山地が印象的で、この地域の土壌は石灰岩由来のものが支配的です。 これがワインに独特のミネラル感や絶妙な酸味をもたらしています。 一方、東部はアペニン山脈の麓に位置する丘陵地帯で、土壌は粘土質、砂質、雲母質石英砂岩が広がります。 こちらではブドウが異なる栄養素を吸収し、豊かなフルーティーな香りを生み出します。
特にアクイラの山地は広大な潟の盆地を形成しており、これがブドウ栽培にとって独特の環境を提供しています。 地勢や土壌の多様性が、アブルッツォのブドウに個性的で豊かな特性を与え、最終的なワインの風味に深みと複雑さをもたらしています。
気候条件とワインの独自性
アブルッツォの気候は、ワインに特有の特性をもたらしています。 地域内の標高や地勢の差異が、ワインの風味に微妙な違いを生み出しています。
アペニン山脈のアドリア海側では、温暖で穏やかな気候が広がっています。 これが、柔らかなタンニンやフルーティーな香りのワインを生み出す一因となっています。 海の影響で気温が安定し、ブドウがゆっくりと成熟する環境が整っています。
一方、内陸部の盆地では大陸性の気候が支配的で、標高が高くなるほど気温が低くなり、降水量が増加します。 これにより、より濃厚で力強いワインが生み出されることがあります。 内陸地域の風通しが良く、降水が少ない条件は、ブドウに独特の濃縮されたフレーバーを与えています。
アブルッツォの気候条件の変動が、ブドウの成熟度や風味にどのように影響しているかを理解するために、地域ごとの気候の特徴を考慮することが不可欠です。 これらの微妙な違いが、アブルッツォのワインに豊かな多様性と独自性をもたらしているのです。
アブルッツォの気候とワインの特性
このようにアブルッツォの気候は、その土地に育まれるワインに独自の特性をもたらしています。ここに解説した通り、地域の標高や地勢が、ブドウの育成に深い影響を与え、ワインの風味に微妙な変化をもたらしています。
繰り返しにはなりますが、アペニン山脈のアドリア海側では、温暖で穏やかな気候が広がっています。海からの影響で気温が安定し、これが柔らかでエレガントなワインを生み出しています。標高の低い地域では、フルーティーで軽快なワインが栽培されております。
一方で、内陸部は大陸性の気候が支配的です。標高が高くなるにつれ気温が低下し、降水量が増加します。これが、濃縮された果実味と力強い構造を持つワインにつながります。内陸の盆地では風通しがよく、降水が少ない条件が、ワインに独特のミネラル感や深みをもたらしていると言えるでしょう。
Zone vitivinicole ブドウ栽培とワイン生産地区
アブルッツォ州では、モンテプルチャーノ種を中心に、トレッビアーノ・ダブルッツォ種などの多様な品種が栽培されています。地域の多様な気候条件や土地の特性が、これらの品種に独自の風味を与えています。さらに、地元品種や他地域品種、海外品種のクローンの選別研究が行われ、ブドウ栽培の新たな可能性が模索されています。
ブドウ栽培の多様性と特徴的な品種
アブルッツォ州では、ワイン生産においてモンテプルチャーノ種をはじめとする様々な品種が栽培されています。これらの品種は、地域の多様な気候条件と土地の特性によって独自の風味を生み出しています。地元のブドウ品種だけでなく、他地域品種や海外品種のクローンも研究され、ブドウ栽培の新しい可能性が探求されています。
近年、アブルッツォ州のワイン生産は急速に増加しています。アブルッツォ州立エノテカやストラーダ・デル・ヴィーノ機関の積極的な取り組みにより、ワインの品質向上とイメージ改善が図られ、その成果はDOCやDOCG製品の増加に現れています。これにより、アブルッツォ州のワイン産業は国際的な注目を集め、8~10年後には「偉大なカンティーナ」へ変貌する期待が高まっています。
モンテプルチャーノ種: アブルッツォのワイン界の主役
アブルッツォ州のワイン産業を牽引し、その風味に深みを与える主役のひとつとして、「モンテプルチャーノ種」が輝いています。これはアブルッツォのワイン愛好者にとって馴染み深く、その特徴的な性質が土地の個性を表現しています。
モンテプルチャーノ種の魅力
モンテプルチャーノ種はアブルッツォ州で最も重要な品種のひとつであり、そのワインは深い色調と力強い風味が特徴です。特に、モンテプルチャーノのブドウから生まれるワインは、濃厚で豊かな果実味としっかりとした酸味が絶妙に調和しています。この独自のバランスは、高い品質と風味の一貫性を保っています。
モンテプルチャーノの生態特性
モンテプルチャーノ種は均一で恒常的な生産を保証する生態特性を持っています。その長い生長サイクルと遅熟性は、主に高地での栽培に適しています。アブルッツォ州の山間部や丘陵地での植栽が主流であり、乾燥して密度の詰まった土壌を好む特性が、これらの地域でのワイン生産に理想的な環境を提供しています。モンテプルチャーノのブドウは、独自の風味と深いコクをもたらすため、アブルッツォ州のワイン産業において不可欠な存在となっています。
DOCG: モンテプルチャーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ
アブルッツォ州のワインの最高峰に輝くのが、モンテプルチャーノ種から生まれる「モンテプルチャーノ・ダブルッツォ・コッリーネ・テラマーネ」です。このワインはDOCG(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)の厳格な認定を受けており、地域の特別な気候条件と土地の恩恵を受けながら育まれています。モンテプルチャーノ種がもたらす独自の個性が、このワインに豊かな深みと複雑さを与えています。ワイン愛好者にとって、これはアブルッツォのワインの最高傑作と言えるでしょう。
DOC: モンテプルチャーノ・ダブルッツォ
一方で、アブルッツォ州のモンテプルチャーノ種から生まれる「モンテプルチャーノ・ダブルッツォ」も非常に重要な存在です。DOC(Denominazione di Origine Controllata)の認定を受けたこのワインは、モンテプルチャーノの独自の特性を愛するワイン愛好者に広く受け入れられています。熟成によってさらなる風味の深みを増すこのワインは、アブルッツォ州のワインの多様性と品質の高さを象徴しています。
トレッビアーノ: アブルッツォのもうひとつの宝石
アブルッツォ州のワイン多様性において、もうひとつ際立った品種が存在します。その名も「トレッビアーノ」。これはワイン愛好者にとって、アブルッツォの風土を感じるうえで欠かせない存在となっています。
トレッビアーノの特徴
トレッビアーノは白ワインの主要な品種として知られており、アブルッツォ州で幅広く栽培されています。この品種は、豊かな酸味と爽やかなフルーティな香りが特徴です。また、その繊細でバランスの良い味わいは、さまざまな料理との相性を高めています。特に、地元の食材と組み合わせた際には、トレッビアーノの真価が発揮されると言えるでしょう。
DOC: トレッビアーノ・ダブルッツォ
アブルッツォ州で栽培されるトレッビアーノ品種から生まれるワインのなかでも、特に重要なのが「トレッビアーノ・ダブルッツォ」です。DOC(Denominazione di Origine Controllata)の認定を受けたこのワインは、地域の伝統や風土を反映しつつ、トレッビアーノの独自の特性を引き立てています。フレッシュでフルーティな味わいが楽しめることから、幅広い料理に合わせることができます。
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