イタリアワインの基礎知識⑩(10/全22地方):中部-エミリア地方のワイン紀行、偉人の足跡、葡萄の風味

エミリア地方、イタリアの中でも豊かな歴史と伝統、そして独自のワイン文化が息づく場所。その土地が抱える文化的な輝き、歴史的な足跡、そして世界遺産としての価値。この記事では、エミリア地方がどのようにイタリア国内で位置づけられ、どのような魅力を抱えているのかを探求していきます。

1.エミリア地方

エミリア地方は美術、音楽、料理などが交わり合い、その独自の文化が多彩な色合いで彩られています。美術においては、フェラーラのドゥコ家やボローニャ派の画家たちがこの土地から発信し、中世からルネサンスにかけての芸術的繁栄を支えました。

音楽においては、ボローニャがイタリアの音楽の中心地となり、歌劇の興隆やクラシック音楽の伝統を育んでいます。そして、エミリア地方の料理は、特にボローニャを中心にしたエミリア=ロマーニャ料理として知られ、ボロネーゼソースやタリアテッレなどが世界的に親しまれています。

エミリア地方は歴史的にも著名な偉人たちが数多く輩出しています。芸術家では、フェラーラ生まれのピントゥリッキオ(Pinturicchio)が挙げられます。彼はルネサンス期の有力な画家であり、フレスコ画や宗教画でその名を馳せました。

学者としては、ボローニャ出身のウルバヌス8世が挙げられ、彼は中世の教皇として知られています。政治家としては、エミリア=ロマーニャ地方において現代のイタリアを築いたヨハン・ゴットリープ・フォン・ヘルダー伯爵が注目されます。これらの著名な偉人たちはエミリア地方の歴史に深く刻まれており、その業績は今なお称賛されています。

エミリア地方のワインもまた、その独自のキャラクターで知られています。地域の気候風土や土壌の多様性が、ワインに深い風味と複雑さをもたらしています。例えば、エミリア地方のワインは果実味豊かでありながら、繊細でバランスが良いとされています。この特徴的なプロフィールは、地域の異なる地形や気象条件に由来しており、異なる品種がそれぞれ最適な環境で栽培されています。

ワインの中でも、エミリア地方が誇るスパークリングワイン「ランブルスコ」は、その個性的なキャラクターで注目を集めています。ラズベリーのような赤い果実の香りとほどよい酸味が特徴で、これは地元のランブルスコ種がもたらすものです。

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2.La vite e la sua storia ブドウ栽培とその歴史

ワインの歴史に深く刻まれた物語の中で、エミリア・ロマーニャのブドウ栽培技術とワイン生産の進化が輝いています。その歴史の出発点は、古代エトルリア人が栽培技術を巧みに駆使し、Vitis viniferaの中でも特筆されるランブルスコを生み出した瞬間です。ポー川流域の平野に自生するこの品種は、地域の生産力を飛躍的に向上させ、古代ローマ時代においては数多くのワインが量産されました。しかし、その当時の資料にはっきりとした品質に関する言及がないため、ランブルスコの詳細な秘密は未だに解き明かされていません。

中世に突入すると、trebbiano(トレッビアーノ)種やmarvasia(マルヴァジーア)種が舞い降り、エミリアのワインはさらなる発展を遂げました。この時期、エミリアのワインは貴族の食卓で高く評価され、その美味しさと独自性が際立ち、ワイン生産は隆盛を極めました。Andrea Bacciや18世紀のlabrusco(ラブルスコ)種の登場は、地域のワインが国内外で圧倒的な成功を収めたことを示しています。

しかしながら、14世紀にはフィロキセラの蔓延が州のブドウ畑に壊滅的な危機をもたらしました。この悲劇的な出来事により、多くのブドウ畑が荒廃し、エミリアのワイン産業は深刻な打撃を受けました。しかし、地元の人々は逆境に立ち向かい、再びブドウ栽培を始めるべく数十年を費やしました。その結果、エミリアのワインは全く異なる特性で再生し、独自の風味を持つことに成功しました。この逆境を乗り越え、再生した歴史が、エミリアのワインがいかに頑強で持続的なものであるかを象徴しています。

3.エミリアのワインを理解するための環境要因

エミリア・ロマーニャ州のワインを理解するには、その環境要因がどのようにワインに影響を与えているかを探求することが不可欠です。この地域は広大な領域を異なる地形が彩っており、その特異な地勢がワイン生産に興味深い影響をもたらしています。

まず、山岳地帯、丘陵地域、平野部分が25.1%、27.1%、47.8%という比率で広がっています。この多様性に富んだ地形がワインの栽培に適していることは、異なる品種の育成が可能であることを示唆しています。

地理的には、西側はアペニン山脈に隣接し、その広大な平野はポー川の流れに従って広がっています。この地域で育まれるブドウは、山岳地帯のミネラル豊富な土壌と、アドリア海からの微風がもたらす穏やかな気候の影響を受けています。また、北はロンバルディア州やヴェネト州と隣接し、東はアドリア海に面しているため、多様な気象条件がワインに独自の風味をもたらします。

土地の構成においては、粘土質の土、大理石、石灰岩が支配的であり、川の支流は急流で春と秋に増水する特性が見られます。これがブドウにとって理想的な生育環境を形成し、ワインに独自のミネラル感や豊かな香りをもたらします。

気候については、亜大陸的で冬は寒く夏は暑いが、アドリア海の微風が和らげることで、ワイン用ブドウが十分に成熟しやすい状態が整っています。地域内の気温差も激しく、これが品種の多様性を生み出しています。例えば、冬の平野地帯では高い運気と露の発生が見られ、これが一部のワインに独特の風味をもたらしているのです。

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4.ブドウ栽培とワイン生産地域の特徴

ブドウ畑の広がり

エミリア地方とロマーニャ地方は、それぞれ独自のアイデンティティを有し、合計で58,000ヘクタール以上のブドウ畑が広がっています。2000年には700万ヘクトリットルのワインが生産され、特に丘陵地域では11のワインと味覚の街道を巡ることで、地域の特産物と料理に合わせた美味しいワインを楽しむことができます。

赤ブドウ品種は全体の55%を占め、エミリア地方の丘の斜面上で用いられる主な栽培システムは、guyot(グイヨー)式やsylvoz(シルフォツ)式などが一般的な栽培方法です。一方、平野地域で非常に普及しているのは、raggi (ラッジ)式もしくはbelussi (ペルッシ)式、ベルゴラ・ロマニョーラ式、G.D.C.式、alberata emiliana (アルベラータ・エミリアーナ)式である。エミリア地方の特産品種にはbarbera(バルベーラ)種やcroatina(クロアティーナ)種があり、ロマーニャ地方ではmalvasia bianca di Candia aromatica(マルヴァジーア・ビアンカ・ディ・カンディア・アロマティカ)種やsauvignon(ソーヴィニヨン)種が主に栽培されています。

ピアチェンツァ地域では、barbera(バルベーラ)種とcroatina(クロアティーナ)種に代わり、ervi(エルヴィ)種が注目を集めています。ervi(エルヴィ)種は高い生産力を持ち、標高が高い場所で成熟が進まないbarbera(バルベーラ)種に代わって、Gutturnio(グットゥルニオ)を作る重要な存在となっています。

ワインの歴史と研究

エミリア地方のワインの歴史は古代ローマ時代から始まり、その歴史的な背景は今なお感じられます。特に、ポー川で発見された古代ローマ時代の銀の大きなカップ”gutturnium(グットゥルニウム)”は、ワイン製造の歴史において重要な証拠となっています。このカップは、エミリア地方が古くからワインの生産に携わっていたことを示すものであり、今なおピアチェンツァ県ではその影響が感じられます。

品質向上のための研究やアドバイスを通じて制定された法164/92は、地域のワイン製造において品質と伝統を守るための基盤となりました。また、この法律の下で行われた研究によって、新しい品種の組み合わせが生まれ、エミリア地方のワインの多様性と革新が促進されています。

地域ごとの特産品種

ボローニャ県やモデナ地域では、伝統的にmontù(モントゥ)種が栽培され、そのブドウから生まれるReno Montuni(レーノ・モントゥーニ)ワインはその土地ならではの風味を持っています。モントゥ種は特に標高の高い地域で栽培され、その影響を受けたワインは独自の香りと味わいを楽しむことができます。

一方、アドリア海の海岸地域ではBosco Eliceo(ボスコ・エリチェオ) D.O.C.ワインが特徴的です。fortana(フォルターナ)種やuva d’oro(ウーヴァ・ドーロ)種が栽培され、これらの特産品種から生まれるワインは、海洋性気候の影響を受けた独自の風味とフレッシュな特性を持っています。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得