イタリアワインの基礎知識⑨(9/全22地方):中部-トスカーナ地方、古都の調べと味わいの旅

ワイン愛好者の心を引きつける、イタリアの楽園、トスカーナ。この地はおおよそ64,000ヘクタールにも及ぶブドウ畑で彩られ、緩やかな丘陵地に広がります。美しい風景の中で栽培されるブドウは、トスカーナのワインを世界的に賞賛されるものへと昇華させます。

この記事では、トスカーナワインの多様性と魅力の源泉に迫ります。歴史の奥深さ、文化の息吹、風土の多様性がどのようにワインの味わいに反映され、その独自性を形成しているのか、ご紹介いたします。トスカーナワインの魅力的な旅へ、ご一緒に出かけましょう。

1.トスカーナ地方

トスカーナ地方の魅力

トスカーナはイタリアの文化と歴史の宝庫であり、その風景と芸術が絶え間なく訪れる者を魅了しています。文化的には、フィレンツェ、シエナ、ピサなどの都市が美術館や広場を通じてルネサンスの栄光を伝え、イタリア文化の象徴となっています。歴史的には、古代エトルリア人から始まり、ギリシャ・ローマ文明の影響を受け、中世の修道院文化を経て、ルネサンス期には芸術と科学の拠点として栄えました。

世界遺産として登録されたトスカーナの風景は、地中海に面した美しい土地からフィレンツェの歴史地区、ピサの斜塔など、歴史と自然が見事に調和したものです。そして、トスカーナは多くの著名な偉人を輩出しました。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ダンテ・アリギエーリなどが、この土地で花開きました。

一方で、トスカーナのワインはその風土に根ざした独自の特徴を持ちます。地中海性気候と多様な地形がもたらす絶妙な条件で生まれるワインは、サンジョヴェーゼ種を中心に、風味豊かで複雑なものとなっています。トスカーナの畑で育まれるぶどうは、世代から世代へと受け継がれる伝統とともに、この地方ならではの素晴らしいワインを築き上げています。

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2.La vite e la sua storia ブドウ栽培とその歴史

古代からの栄光: トスカーナのブドウの歴史

トスカーナのブドウ栽培は古代エトルリア人の時代から栄え、紀元前7世紀にまでさかのぼります。当時、ギリシア文明の影響を受け、自治体の成立とともにブドウ栽培が急速に拡大しました。古代のトスカーナは商人たちが活躍し、彼らの交流によってワインが広まりました。ただし、この栄光の時代に関する歴史的な裏付けは乏しく、古代の成功についての確かな証拠は残されていません。この時期のブドウ栽培の具体的な手法や使用された品種についての情報はほとんどが失われてしまったと考えられます。

中世からの復活: 修道院とワインの再興

ローマ帝国の衰退に伴い、中世初期にはトスカーナのワイン業も低迷しました。しかし、1100年頃になると、修道院の組織が整備され、再びブドウの栽培が始まりました。この時期には、特にRicasoli家やAntinori家、Frescobaldi家などの貴族の支援があり、トスカーナのワインは再び隆盛を迎えました。修道院はブドウの栽培やワイン醸造において重要な役割を果たし、中世のトスカーナにおけるワインの再興に寄与しました。貴族の支援によって生まれたブドウ畑や修道院のワイナリーは、その後のトスカーナワインの発展に繋がっています。

統制と革新: トスカーナのワイン産業の進化

1716年、Cosimo III de’ Mediciによって初めての統制原産地制度が制定され、Chianti、Pomino、Carmignano、Valdarno di SopraのD.O.C.が設けられました。この時期には、ワイン醸造技術が進化し、学術書や技術書が出版されました。これにより、トスカーナのワインはより高品質なものへと変化していきました。特にChiantiワインは、ブドウの伝染病への対応で名声を確立し、その革新的なアプローチがワイン産業全体に影響を与えました。1896年には、トスカーナがイタリア初の食事用赤ワインの生産地区に指定され、これがトスカーナワインの地域ごとの特異性を強調する一因となりました。

3.トスカーナの気候風土がワインに与える影響

トスカーナ地方は、その広大な22,993平方キロメートルの三角地形が、山岳、急陵、平野といった多彩な地形構造を形成しています。これらの地形がワインに与える影響は多岐にわたります。

  • 山岳地帯の影響: 山岳地帯では、標高の変化がブドウの栽培に重要な影響を与えています。標高が高いほど気温が低くなり、これがブドウの成熟を遅らせ、酸味と風味を豊かにします。この地域で生産されるワインは、高い酸度と複雑な風味が特徴となっています。
  • 丘陵地帯の特徴: 丘陵地帯はトスカーナワインにおいて特に重要です。異なる地質層や土壌が広がり、これがワインの多様性を生み出しています。例えば、土壌の異なるエリアではブドウに含まれるミネラル成分が異なり、それがワインの味わいに独自性をもたらします。丘陵地帯の風土が、トスカーナワインの多様性と豊かなキャラクター形成に寄与しています。
  • 平野地帯の影響: 平野地帯では、気温が一定であるため、ブドウの成熟が安定して進みます。これが果実の甘味を引き立て、しっとりとした口当たりのワインを生み出します。また、平野部では広大なブドウ畑が形成され、効率的な収穫と生産が可能となり、トスカーナワインの市場供給に寄与しています。
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4.土壌とその特徴

トスカーナの土壌がワインに与える影響

トスカーナの土壌は大理石、砂岩、粘土質、火山性岩など、多様性に富んでいます。これらの地質学的な要素がワインの品質に与える影響は極めて重要で、それぞれの特徴がワインに独自のキャラクターをもたらします。

地質学的な要素とブドウのミネラル特性

例えば、ガレストロと呼ばれる地質層は、ワインに独特のミネラルを提供しています。この土壌がブドウに含まれるミネラル成分に影響を与え、ワインに深みと複雑さをもたらします。ガレストロは主に粘土質であり、その土壌特性がブドウの根によって吸収され、独自の風味と品質に変化をもたらしています。

土壌の保水性と通気性の影響

トスカーナの土壌の多様性は、保水性と通気性にも影響を与えます。例えば、粘土質の土壌は水分を保持しやすく、これがブドウの成長に良い影響を与えます。逆に、砂岩質の土壌は通気性が高く、ブドウの根がより深く広がり、土壌の中から養分を吸収しやすくなります。これらの要素が組み合わさり、ブドウの生育環境が最適な状態を作り風味や品質に影響を与えてる要因となります。

5.気候の影響

トスカーナの気候はその地理的な多様性により、地域ごとに異なります。これがワインの品質に大きな影響をもたらしており、特に海岸地域、丘陵地帯、山岳地帯での気候条件がワインの味わいに反映されています。

  • 海岸地域の穏やかな気候: トスカーナの海岸地域では、穏やかで一定の気候が保たれています。これがブドウの熟成に理想的な環境を提供し、ワインに爽やかな風味をもたらします。冷涼な夜と温暖な昼の温度差が、ブドウの糖度や酸度をバランスよく発展させ、複雑な風味を生み出しています。例えば、この地域で生まれるワインは果実味が強調され、なめらかで心地よい口当たりを持つことが特徴です。
  • 丘陵地帯の気候条件: 丘陵地帯でも気候は特有で、海岸地域とは異なります。ここでは標高の変化や地形が影響を与え、ブドウにより複雑な風味をもたらします。暑さを逃れることができる高地では、ブドウがゆっくりと成熟し、味わい深いワインが生まれます。また、この地域の気温変動がブドウにストレスを与え、それが風味の豊かさに寄与します。
  • 山岳地帯の大陸性気候: 一方、トスカーナの山岳地帯では大陸性気候が支配的です。ここでは厳寒気候や頻繁な降雨がブドウ栽培に影響します。寒冷な気温がブドウに酸味と力強さを与え、標高の高い場所での栽培がブドウに独特の特徴をもたらします。この地域で育ったワインは濃厚で力強く、複雑な風味が感じられます。

6.Zone vitivinicoleブドウ・ワイン生産地区

トスカーナのブドウ畑と環境

トスカーナ州のブドウ畑は約64,000ヘクタールに広がり、緩やかな丘陵地がブドウの木に理想的な環境を提供しています。この地域は美しい景観とともに、世界的に評価されるワインを生み出しています。特に注目すべきは、丘陵地での栽培が主流であり、ここで生まれるワインは品質への意識が高く、中上級クラスのワインが安定して生み出されています。丘陵地での育成はブドウに良好な排水と日照条件を提供し、結果として優れた味わいと風味をもったワインが誕生しています。

トスカーナのD.O.C.G.とD.O.C.の数々

トスカーナ州は品質へのコミットメントを示すため、6個のD.O.C.G.(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)および34個のD.O.C.(Denominazione di Origine Controllata)を誇っています。これらの呼称は、トスカーナワインが単なる流行ではなく、品質とバランス、生産量、市場での受け入れなど様々な要因が見事に融合して生まれることを示しています。例えば、Solaia(ソライア)の1997年ヴィンテージがワイン・スペクテーター誌で最優良ワインに選ばれたことは、ワインの卓越性だけでなく、価格とのバランス、生産量、アメリカ市場での評価など多岐にわたる要因に裏打ちされています。

地域別の魅力: Chianti Classico地区

トスカーナ州の魅力的な特徴の一つは、特定の地域でのワイン生産に適した土地が存在することです。特にFirenzeからSienaにかけてのChianti Classico地区は、美しい景観と共に、豊かなオリーブとブドウ畑が広がり、素晴らしいワインが生み出されています。この地域では、異なる栽培方法が見受けられ、例えばArchetto Toscano方式やGuyot con cordone speronato方式が採用されています。これらの栽培方法がワインにどのような風味や質をもたらすか詳しく見ていきましょう。

Archetto Toscano方式:

Archetto Toscano方式は、トスカーナ地方で特にChianti Classicoで一般的に使用される栽培方法の一つです。この方式では、ブドウの木を弓状に形成し、ブドウ房を地面から持ち上げるように誘引します。これにより、ブドウは日光をより多く浴び、通気性が向上します。この栽培方法がもたらす主な特徴は、ブドウの均一な成熟と風味の集中です。弓状に誘引されたブドウ房が均等に日光を浴び、均質な熟成が促進され、結果としてワインは豊かでバランスの取れた風味を備えることが期待されます。さらに、通気性の向上により、カビや病気のリスクが低減し、高品質なブドウの生産が可能となります。

Guyot con cordone speronato方式:

Guyot con cordone speronato方式は、もう一つのChianti Classico地区でよく見られる栽培方法です。この方式では、一本の主幹に2つの横枝(cordon)を残し、各横枝にスポロ(spur)を残します。これにより、ブドウ房は横枝のスポロから生じ、比較的短い距離で房が形成されます。この栽培方法がもたらす特徴は、ブドウの集中した成熟と複雑な風味です。主幹から直接伸びるスポロにより、ブドウは限られたエネルギーを使って成熟し、風味が濃縮されます。短い距離で房が形成されるため、風味の多様性が生まれ、ワインは豊かで複雑な味わいを持つことが期待されます。

7.赤ワインの主流と品種

トスカーナ州は赤ワインの生産が主流であり、赤ブドウから造られたものが全体の70%を占めています。特にsangiovese(サンジョヴェーゼ)種やcanaiolo(カナイオーロ)種が注目を集め、これらの品種がトスカーナワインの高品質な生産に大きく寄与しています。

トスカーナワインの味わいは、その土地が育んだ歴史、文化、風土に深く根ざしています。歴史的には、修道院の復興期にブドウの栽培とワイン生産が再燃し、トスカーナワインにおいて品質への探求心が育まれました。特にRicasoli家やAntinori家、Frescobaldi家などの貴族の支援により、歴史的な伝統は革新的な手法と共に受け継がれ、ワインには洗練された味わいが宿ります。

文化はブドウ畑に息づき、Chianti Classico地区では美しい景観と歴史的建造物がワイン造りに調和をもたらしています。地元の文化的なイベントや伝統的な製法はワインに影響を与え、トスカーナワインには文化的な深みが表れています。また、地元の料理との調和も重要で、それがワインとの相性を生み出し、独自の風味をもたらします。

風土は多様であり、異なる地域ごとに異なるワインの特性をもたらしています。海岸地域や丘陵地帯では穏やかで一定の気候がブドウに芳醇さをもたらし、山岳地帯では大陸性気候が力強さと濃厚さを生み出します。これらの風土の多様性が、トスカーナワインに深みと独自性をもたらし、他のどのワインとも異なる多彩で魅惑的な味わいを形成しています。

記事を書いた人

しょうたろう
しょうたろう
ワイン愛好家に向けて2023年よりWebサイト「WINE自習室」でワインの魅力を発信。エレガントな赤、アロマティックな白ワインが好み、最近は陽気なイタリアワインがお気に入り、ワインを飲むのが楽しくなる情報をたくさん配信できるよう頑張ります。J.S.Aワインエキスパート2020年取得